ローカルハンター ヒロ

全国を旅しながら農業や田舎の情報発信をしていきます。

物流2.0

メールの通知が一件。Amazonからタイムセールの事前通知であった。この文体ももはや見慣れたものである。

 

Amazonの台頭は世の中を変えた。地方をはじめとして条件不利地域と呼ばれる中山間地域、離島などに住んでいても、欲しいものをスマートフォンの画面で検索し、発注し、ほんの数日で手元に届くようになった。更に先日のAmazon GOの一号店開業は耳に新しいの。レジをなくし、商品を手に取りゲートを通過するだけで決済が終わる、まさに時代の最先端を行くテクノロジーを惜しみなく活用している。

 

しかし、その興隆にに伴う影響ももちろん視野に入れなければならない。運送業者の切なる悲鳴である。Amazonをはじめとする電子取引による発注量は莫大な量であることは容易に想像がつく。それを顧客に届けるために日夜運送業者は全国各地を駆け回っている。ただでさえ量が多いのにも関わらず、時間指定や現場の労働力不足により、もはやキャパをはるかに超えたタスク量になっている。そうした背景により、発送費用の値上げにいくつもの会社が踏み切った。

 

もちろんこれは農業界隈においても決して他人事ではない。冷凍技術をはじめとする運送におけるテクノロジーの発達により、広域流通を可能にした。かつて秋刀魚は漁獲された港付近でしか刺身が食べられなかったが、その技術の発達により、今や全国各地で秋刀魚の刺身が食べられるようになった。新鮮な状態の農作物も全国各地に流通するようになった。発送コストの上昇は農家にとって痛恨の一撃になりうる。昨今の物流の抱える問題は農家の問題でもあるのだ。

 

では、どうすれば良いのか。1農家として考えてみた。

 

既存の物流の定義は「収穫した農作物を顧客に届けること」である。この枠組みの中でどのようにしてコストをできる限り削減していくのか。地域内で独自の物流システムを構築するのか。地産地消を徹底し、流通の範囲を極端に狭めるのか。前者は誰が出資し、運営するのか。それに以前取り組んでいた地域の方に話を伺うと、システム構築をするためのコストが莫大なため、既存の物流システムを活用する方がコストは低いと話されていた。後者は根本的に供給量が足りないであろう。いずれにせよ、「既存の枠組み」の中でそれに代替しうる物流システムを早急に構築することはほぼほぼ不可能に近いと言えるだろう。

 

だったら、そもそもの物流の定義を今一度考え直してみよう。

 

先日、鳥取県大山町を訪ねた時の話である。お世話になる農家さんに圃場を案内してもらっていると、奇妙な光景を目にしたのである。約一反ほどの畑に10人ほどの人たちがひたすら農作物を収穫しているのである。10本ほどの畝があって、一本につき一人が対応しているといった具合である。しかもどうやら彼らは畑の主ではないらしい。彼らは収穫から発送するまでをアウトソーシングとして請け負う会社の方々であったのだ。

 

農家の抱える問題の1つとして現場における労働力不足は周知の通りである。しかし、意外にも生産管理において作目間の違いはあれど、一人で賄うことも可能である。(労働力があるに越したことはないし、むしろ欲しいぐらいなのだが。)しかし、繁忙期の忙しさは尋常じゃない。朝3時ごろに圃場へ行ってトラクターの上で仮眠をとり、夜明けとともに耕運を開始する大規模米農家の方もいるほどである。実った作物を収穫できぬまま、畑で腐らしてしまうことも珍しいことではない。世界中を見渡してみると、飢餓で苦しむ人々が大勢いる中でこの事態はあってはならないことだと思う。

 

その請負会社は、発送の部分にとどまらず、農家の抱えるこの問題の1つに対してもアプローチしているのである。しかもアウトソーシングにかかる緖費用は自分で収穫して箱詰めし、発送するよりも抑えられるのである。これにより、収穫以降のプロセスにかけていた時間と、それに伴い発生するお金という農家にとって貴重なコストを抑えられるのである。

 

この物流システムは既存の物流の時間幅「収穫後〜発送完了」を超えている。上記のように、時間幅を「収穫〜発送完了」まで広げることによって、農家の抱える問題を解決する新しい物流システムを構築することができたのである。「収穫したものを発送する」という常識から脱却し、こういった収穫以降のプロセスを代行するサービスもこれから面白くなってくるのではないだろうか。